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2022年4月2日土曜日

【紙の時代のGoogle】【伝説のカタログ】Spectator スペクテイター〈29号〉 ホール・アース・カタログ〈前篇〉



スティーブ・ジョブズも高城剛さんも影響を受けた本の解説書です。

先日ご紹介した「Spectator スペクテイター 48号 パソコンとヒッピー」にも登場し、1960年代のカウンター・カルチャーから、現代のパソコンやスマートフォン、インターネットなど、様々な分野や人々に多大な影響を与えた「ホール・アース・カタログ(Whole Earth Catalog)」(邦訳書 未刊行)。

ホール・アース・カタログを特集した「スペクテイター 29号 ホール・アース・カタログ〈前篇〉」は、日本語で読むことができる解説誌で、非常に読みごたえがあります。30号と併せて2号に渡る特集号です。

ちなみに、先日の高城剛さんのメルマガ(Vol.495)で紹介されていましたが、書籍「Life Packing」シリーズは”「ホール・アース・カタログ」のつもり”で作っているそうです。


▼スペクテイター30号 ホール・アース・カタログ〈後篇〉で登場する、ホール・アース・カタログのシェルター部門の編集者として活躍したロイド・カーン氏(Lloyd Kahn)による解説


ホール・アース・カタログは、当時29歳だった創始者のスチュアート・ブランドが作った1968年から1974年までに年2回発行されたカタログ誌です。はじめは米国ニューメキシコとコロラドのコミューンをトラックで回って手作業で作った新聞(カタログ誌)を手売り販売することからスタートしました。次第に人気が急騰し、大手出版社を通して販売されるようになり、最終号は全米で150万部の大ベストセラーになります。


これがホール・アース・カタログだ!

ACCESS TO TOOLS
「カタログ」といっても一般的な通販カタログのように商品を販売して利益を得ることを目的とせず、あくまでも読者が情報や知識へ「アクセス」する道具としての役割が重視されていた。


カタログの巻頭には、この本の「役割」と「目的」が記されていた

<FUNCTION 役割>

ホール・アース・カタログは、モノを評価する規準として、また、それらを入手するための手引きとして機能するべきものである。これを読んだ読者は、何が手に入れる価値があるものか、それをどうやって手に入れればいいか、よりよい判断ができるはずである。

このカタログに登場する品目は

  1. Useful as a tool,(道具として役に立つこと)
  2. Relevant to independent education,(自立教育への関連性)
  3. High quality or low cost,(高品質、もしくは低価格)
  4. Not already common knowledge,(まだ一般的ではない知識)
  5. Easily available by mail.(郵便で容易に入手)

ことを条件としている。掲載品目は読者と編集スタッフの体験と提言により、常に手直しされている。


<PURPOSE 目的>

我々は各人が創造の神だ。どうせなら、素晴らしい神になろうではないか。我々から遠く離れたところで生まれた権力と栄光 ― たとえば、政府や大企業、形式的教育、教会などを通して ― は、実際上のプラス面も、全体的な欠陥のかげに隠れてしまうような結果をもたらしてしまった。このジレンマに答えて、一連の本質的な、個人的な力 ― 自分を自分で教育する力、自分のインスピレーションを自分で探求する力、自分の環境を自分で整理する力、関心を共にする人とすばらしい経験を共有する力 ― が生まれつつある。このプロセスに役に立つ道具を探し支持するのが、この「全地球カタログ」である。


カテゴリ

  • Understanding Whole Systems(全体システムの理解)
  • Shelter and Land Use(シェルターと土地の利用)
  • Industry and Craft(産業と手工芸)
  • Communications(コミュニケーション)
  • Community(コミュニティ)
  • Nomadics(遊牧民)
  • Learning(学習)


それは、スティーブ・ジョブズが言っていたように「インターネットがなかった時代のGoogleであった」のだ。


Dear Readers(はじめに 特集の経緯)

ホール・アース・カタログの存在を意識したのは、90年代の後半にニューヨークの書店で平積みになっていたのを見たのが最初でした。タブロイド新聞を束ねたような異様な存在感に惹かれて購入してはみたものの、どう読めばいいか思い倦ね放ったらかしにしてあったその本が60年代に発行されたオリジナル版の復刻改訂版であることを知ったのは、それから数年後のことでした。かつては多くの読者から熱狂的な支持を得て栄華を極めたホール・アース帝国が、すでに終焉を迎えつつあったことを知ったのも…。

いったん役目を終えた出版物を再評価する特集を二号に渡って組もうと決めたのは、その後の社会に過大な影響を与え、”伝説の”と形容されることも多いカタログの真実を知ることが、わたしたちの未来の暮らしを考えていくうえで欠かせない、あらたな視座を得ることにつながると考えたからです。

当時、社会や政治の状況に満足できず都会を離れた若者たちが自分たちのやりかたで生き方を変えて生き延びるための生活指南書、あるいは思想書のような役割を、このカタログは担っていました。衣食住にまつわる全てを手づくりするための技術や地球に負担をかけない暮らし方、自主教育や独自の情報交換ネットワークを持つことの重要性。巨大な誌面を埋めていたのは、いずれも「個人の王国」を築いていくうえで習得しておいたほうがうよさそうな情報でした。

あらためてカタログのページをめくってみると、いまの世の中のスタンダードになっている暮らしのコンセプトが早くも当時の誌面に詰まっていたことに気づかされます。ソーシャルネットワーク、オーガニック、自然エネルギー、低炭素型社会…より良い社会をつくろうと理想に燃えてサンフランシスコの編集部に集った若者たちが描いた夢が40余年の歳月を経た今になってようやく達成されつつあるように思えてくるのです。まるで「預言の書」のような巨大な書物は当時どんな役割を果たし、どんなふうに読まれたのか? これまであまり語られることのなかった幻のカタログにまつわる事実を、さまざまな検証を重ねて明らかにしてみたいという想いが、この特集を生みました。

編集作業を進めていくうちに、あらたな疑問が浮かんできました。あの頃の若者たちが描いた夢は果たして地球全体にとって本当に理想的と言えるものだったのか? その夢はそもそも良い夢だったのか。それとも悪夢だったのか?

過去と現在を行き来しながら、ときには宇宙の果てへまで視野とイマジネーションを広げながら、その答えを読者の皆さんと探っていけたら、この特集を作った甲斐があったといえるでしょう。

二号にわたる特集号を、じっくりとお楽しみください。

スペクテイター編集部 青野年光



本書は2013年に発売されましたが、ホール・アース・カタログが創刊されたから約40年後に、このような特集を組んでくれたスペクテイター編集部の方への感謝の気持ちでいっぱいです。現在(2022年4月2日)廃版のため、amazonやオークションサイトなどで高額で取引されています。良書なので出来るだけ多くの人が読むことができるためにも、復刻、続編、または増補改訂版としての書籍化などを期待します。


目次

  • 巻頭対談 ホール・アース・カタログ伝説をめぐって
  • 証言スクラップ 「幻のカタログ」は、どう語られてきたのか?
  • ホール・アース・カタログのできるまで
  • ホール・アース・カタログ概論
  • 70 年代、日本の若者雑誌に、なにが起こっていたのか?
  • ヒッピーたちは、なぜパソコンに魅せられたのか?
  • バックミンスター・フラーの影響力
  • ベジタリアニズムと『ホール・アース・カタログ』
  • 『ホール・アース・カタログ』と「自分を育てる教育」
  • 『ホール・アース・カタログ』の成果、および全球時代の幕開け