国家はどのようにして衰退していくのか?
先日の高城剛さんのメールマガジン(Vol.737)で、「イノベーションでは世界は変わらない」というQ&Aの中で、経済学者のダロン・アセモグル氏について紹介されていました。経済成長に対するテクノロジーの影響について書かれた「技術革新と不平等の1000年史」と併せて、制度の役割について書かれた著者の代表作をご紹介します。
著者のダロン・アセモグル氏はトルコ生まれでアメリカ国籍を持つ経済学者です。マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学の教授を務めており、2024年にはノーベル経済学賞を受賞しています。
(共著者のジェイムズ・A・ロビンソン氏はイギリス出身でアメリカ国籍を持つ経済学者・政治学者。現在シカゴ大学ハリス・スクール・オブ・パブリック・ポリシー教授。同じく2024年にノーベル経済学賞を受賞)
本書『国家はなぜ衰退するのか』は、世界に存在する国々の貧富の差を、地理や文化、為政者の能力ではなく、「政治・経済の制度」が原因であると主張する本です。歴史的な比較分析によって論証しています。
国が豊かになるか貧しくなるかは、その国が持つ制度の性質によって決まるというもので、大きく2つに分類しています。
- 「包括的制度(inclusive institutions)」
- 多数の人々が経済活動に参加し、自らの能力を最大限に発揮できるような制度
- 所有権が保護され、法の下での公平な競争が保証される
- 技術革新や創造的破壊を奨励し、長期的な経済成長をもたらす
- 例:アメリカ、イギリス、日本
- 「収奪的制度(extractive institutions)」
- 少数の支配層が、大多数の人々から富や権力を収奪し、自らの利益を追求する制度
- 所有権が不安定で、革新的なアイデアが報われにくい
- 支配層が既存の権益を維持するために、技術革新を妨げたり、競争を排除したりする
- 例:多くの植民地、独裁政権下の国々
具体的な事例として、アメリカとメキシコ国境を挟んだ街の比較や、北朝鮮と韓国、古代ローマやマヤ文明の興亡などを挙げています。
地理的要因(気候、天然資源)や文化的要因(国民性、宗教)が経済格差の原因だとする従来の説を退け、「人間が作り出す制度こそが繁栄と貧困の根本原因」であるという力強いメッセージを著者は提示しています。
日本以外にも世界の国々の「制度の健全性」を考える上で参考になる本です。
目次
- 上巻
- 序文
- 第一章 こんなに近いのに、こんなに違う
- 第二章 役に立たない理論
- 第三章 繁栄と貧困の形成過程
- 第四章 小さな相違と決定的な岐路 歴史の重み
- 第五章 「私は未来を見た。うまくいっている未来を」収奪的制度のもとでの成長
- 第六章 乖離
- 第七章 転換点
- 第八章 縄張りを守れ 発展の障壁
- 下巻
- 第九章 後退する発展
- 第一〇章 繁栄の広がり
- 第一一章 好循環
- 第一二章 悪循環
- 第一三章 こんにち国家はなぜ衰退するのか
- 第一四章 旧弊を打破する
- 第一五章 繁栄と貧困を理解する
- 解説 なぜ「制度」は成長にとって重要なのか 稲葉振一郎
- 付録 著者と解説者の質疑応答