疲労は”ウイルスの数”で測定することができる!
先日の高城剛さんのメールマガジン(Vol.751)で、「最近の研究によると、やる気が出なかったり、うつ病を起こしやすい原因は、SITH-1(シスワン)遺伝子型を持つHHV-6(ヒトヘルペスウイルス6)に感染している人に強くその傾向が見られることが判明」したことが紹介されていました。研究の第一人者である方の著書がありますので、ご紹介します。
書籍『疲労とはなにか―すべてはウイルスが知っていた』は、東京慈恵会医科大学の近藤一博教授によって執筆され、2023年12月に講談社ブルーバックスから出版されました。
近藤教授は、ウイルス学を専門としながら、「疲労」という主観的な現象を科学的に解明しようと挑み続けている世界的な研究者です。
この本は、私たちが日常的に口にする「疲れ」の正体を、最新のウイルス学の視点から科学的に解き明かした一冊です。
主な内容
- 「疲労」と「疲労感」を区別する
本書の重要なポイントは、「疲労(体のダメージ)」と「疲労感(疲れを感じる感覚)」は別物であるという指摘です。 - 疲労:細胞がダメージを受け、修復が必要な生物学的な状態。
- 疲労感:脳が「休め」と指令を出すアラーム信号。仕事に熱中している時などは、脳内の報酬系(ドーパミンなど)によってこの「疲労感」が消されてしまうことがあり、これが過労死などの深刻な事態を招く原因であると警告しています。
- ウイルスが疲れの「ものさし」になる
著者は、ほぼすべての日本人の体内に潜伏しているヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の研究の第一人者です。 - 体が疲れると、潜伏していたウイルスが再活性化し、唾液中に出てきます。
- このウイルスの量を測ることで、これまで主観的だった「疲れ」を客観的な数値(バイオマーカー)として評価できるようになったという画期的な研究が紹介されています。
- うつ病やコロナ後遺症との関係(SITH-1の発見)
本書で最も注目されるのは、「うつ病の原因遺伝子 SITH-1(シスワン)」の発見です。 - 再活性化したウイルスが鼻から脳へ侵入しようとする際、脳内で「SITH-1」というタンパク質が作られます。
- これが脳の特定の部位に炎症を起こし、うつ病の発症に深く関わっていることが解説されています。
- このメカニズムは、慢性疲労症候群や新型コロナウイルスの後遺症(Long COVID)による強い倦怠感を理解する鍵としても語られています。
- 日本の疲労研究は世界トップクラス
「過労死(KAROSHI)」という言葉が世界共通語になるほど、日本は疲労に対して独自の社会環境を持っています。その背景もあり、日本の疲労研究は欧米に先んじて非常に進んでいるという興味深い側面も語られています。
単なる「疲れ取りのハウツー本」ではなく、「なぜ人間は疲れるのか?」「疲れが病気に変わる境界線はどこか?」を論理的に知ることができる、読み応えのあるおすすめの科学読み物です。
目次
- 序章
- 疲労を科学するには
- 第1章 生理的疲労とはなにか
- 1-1 疲労の実像
- 1-2 生理的疲労のメカニズム
- 1-3 疲労と疲労感との乖離
- 1-4 疲労そのものを回復する方法
- 第2章 慢性疲労症候群 病的疲労の代表格
- 2-1 慢性疲労症候群とはどのような疾患か
- 2-2 ME/CFSはなぜ起こるのか
- 2-3 ME/CFSの問題点
- 第3章 うつ病 究極の病的疲労
- 3-1 うつ病患者の脳では何が起こっているのか
- 3-2 うつ病の遺伝子を探す
- 3-3 うつ病の原因遺伝子「SITH-1」
- 3-4 SITH-1発見物語
- 第4章 新型コロナ後遺症 見えてきた病的疲労の正体
- 4-1 新型コロナ後遺症と脳の炎症
- 4-2 SITH-1に似たタンパク質
- 第5章 ついにすべてがつながった
- 5-1 うつ病の脳内炎症が発生するメガニズム
- 5-2 新型コロナ後遺症が長期化するメカニズム
- 5-3 生理的疲労と病的疲労を分けるメガニズム
- 第6章 人類にとって疲労とはなにか
- 6-1 疲労やうつ病をなくすことはできるか
- 6-2 空想科学的 SITH-1論
- COLUMN
- 6-1 新型コロナの新たなワクチン開発について
- 6-2 2つのHHV-6
- 6-2 現代の魔女狩り:アセチルコリンの悲劇
